『  あなたの手  』

 

 

 

 

 

  カタカタカタ  ・・・ カチカチ カチッ 

 

「 ん〜〜〜 ・・・ えいっ ! 

「 う ・・・ うああ〜〜〜  ああ 負けたァ 〜〜 

「 えっへっへ〜〜 また僕の勝ち〜〜〜 ♪ 

「 あ〜あ これで三連敗だよぉ 

「 おと〜さんってばさ 弱すぎぃ〜 」

「 そっかあ? そっかなあ ・・・ 」

「 ウン。 僕、そんなに強い方じゃないよぉ 」

「 そうかなあ〜 すばるはすごく強いと思うよ? 」

「 えっへっへ〜〜〜 」

すばるは に・・・っと笑って 得意そうな顔である。

 

 ― お正月休み ・・・

 

いつもは忙しくて 子供達がしっかり寝入ってから帰ってくるお父さん。

でも この期間はちゃ〜〜んと 朝から晩まで! ウチにいる。

そして ず〜〜っと遊んでくれるのだ。

 

「 僕 クリスマスよかお正月のがすき! 」

「 アタシも! だってさ 」

「 ウン! だってさ〜〜 」

「「 お父さん ずっといるもん♪ 」」

 

すぴかとすばる、子供達はもうずっと大ニコニコである。

お正月には お父さん・お母さん そして おじいちゃま から

お年玉 を貰えてうれしいけど それだけじゃない。

 

「 ね〜 お父さん! お庭で鉄棒しよ! 」

「 お いいぞ。 すぴかは何が得意かい 」

「 アタシね〜〜 連続逆上がり! 見てて 

「 え すっげ〜な〜〜〜 行こうぜ! 

「 うん 行こうぜ! 」

すぴかはお父さんと一緒に 庭に飛び出す。

 

「 おと〜さん! 見て みて〜〜 僕 日本一周の旅

 つくったんだ〜〜 」

「 え 作ったって・・・ 計画したのかい 」

「 そ! じこく表 見てね、作ったんだ〜〜 」

「 え〜〜〜 すげ〜〜 すばる! 見せてくれるかい 

「 ウン! しゅっぱつしんこ〜〜 だよ〜〜 」

すばるはお父さんと並んでノートと時刻表を広げる。

 

   コトン。  ジョーの前に コーヒー・カップが置かれた。

 

「 ・・ ふふふ  ジョー お疲れ様〜〜 

「 フラン  ありがと。 ちっとも疲れてないけど ・・・

 ああ 美味しいなあ 〜〜 」

「 ウルサイでしょう チビ達 」

「 ううん ホントに楽しいんだ ぼく。

 ああ 普段 もっと遊んでやりたいんだけど  」

「 いいのよ ジョー。 お仕事、大変なんですもの。

 それに日曜はいつも子供たちの相手、してくれるじゃない 

「 ぼくが〜〜 チビ達と遊びたいんだよ〜〜う 

 それにしても あっと言う間に大きくなるんだね 

 ついこの間までネンネしてる赤ちゃんだったのに 」

「 あらあ そう?

 もう いつもはナマイキでウルサイ 立派な悪ガキよ ! 」

「 あっはっは〜〜 そうかも〜〜 」

ジョーは愛する細君と に〜んまり笑いあう。

 

「 おと〜〜さん ってばあ〜 おと〜さんの番! 」

「 おか〜さん、 おと〜さん、とらないで 」

子供たちがソファの向うから呼んでいる。

「 お〜〜 今 行くよぉ〜〜 」

「 お願いね 」

「 まかしとけ。 きみはのんびりしろよ 」

「 ありがと。 お蔭でゆっくり新聞、読めます 」

「 あ 博士は? 」

「 コズミ先生の御宅。 なにやら新たな研究項目が出来たみたいよ 」

「 へえ・・・ スゴイなあ 」

「 ええ 今晩は博士のお好きなビーフ・ストロガノフ。 

「 それはいいね。 」

「「 おと〜〜さ〜〜ん ってば !! 」」

「 ああ 今 行くよ 」」

子供たちの甲高い声に ジョーはカップを持ったまま腰を上げた。

「 たまには お母さんとゆっくり話をさせてくれよ 」

「 え〜〜 いつだって二人でいちゃいちゃしてるじゃ〜ん 」

「 僕たちがさき〜〜〜 おか〜さんとは夜、仲良しして 」

「 え・・・ あ〜〜 まあなあ 

 

 ― 子供たちは ちゃんと見ている のである!

 

リビングのソファでは 子供たちがトランプを広げている。

さっきから三人で 神経衰弱 をしているのだ。

 

「 ごめんごめん。 次は誰の番? 」

「 おと〜〜さん! 」

「 あ そっか  え〜と・・・ あは すっかり忘れちゃったなあ 」

「 えへ〜〜 おと〜さんってば 忘れんぼさん だなあ〜 」

「 ふふふ〜〜 これはアタシが全部 いただき♪ 」

すぴかが次々に札をひっくり返してゆく。

「 へえ〜〜 すぴか すごいなあ 」

「 これ と これ。  あれ と これ。  〜〜〜で あがり! 」

「 わお すぴか すごい〜 」

「 わっはは  お父さん、一組しかとれなかったなあ 」

「 ねえ お父さん、 次、 すぴ〜ど やろ! 

「 あ 次は 七ならべ〜〜 」

すぴかもすばるも ジョーにへばり付きっぱなしだ。

「 スピード かあ  ・・・ すぴか、強いかい 」

「 ウン! クラスで一ばん! 」

「 ふうん  七並べ ねえ ・・・ すばる、強いか? 」

「 えへ 僕 さくせん勝ち するよ〜 

「 そっか〜  それじゃ ・・・ 違う遊びしよ。 

「「 え〜〜〜〜 」」

「 三人でさ できる遊び、しようよ 

「 三人で ・・? 」

「 そうさ。 一緒にできる遊び、あるかい。 」

「 う〜〜ん ・・・? 」

「 あ げーむ しよ! 」

「 え〜〜〜 アタシ、すばるみたく上手くないもん。 」

「 すぴか、 そんじゃ さいしょ、見てて。 」

「 い〜けどぉ〜〜 

「 僕とおと〜さん が対決して それから すぴかとおと〜さん。 

 さいごに けっしょうせん しよ? 

「 あ いいよ〜 アタシ しんぱんする 」

「 おっけ〜〜 そんじゃ おと〜さん!

 僕、 いま げーむ もってくるからね 」

すばるは ドタドタ・・・階段を駆け上がってゆく。

「 あ ああ ・・・ 」

「 おと〜さん げーむ 好きくない? 」

「 え? いや そんなことないけど・・・

 すぴかは? すぴかもやっぱりゲームが好きかい 」

「 え ・・・ う〜〜ん どっちかっつ〜〜と

 外でボール鬼 したり 大縄 したりするのが すき  」

「 そっか〜〜 なあ 一緒にジョギング、しようか? 」

「 わ♪  いいのぉ ? 」

「 お父さん、すぴかと走ってみたいなあ 

「 うわい♪ 」

 

     バタバタ  バタ −−−

 

「 おと〜さん !  もってきた〜〜 げーむ しよ! 

すばるは ゲーム機をしっかり抱えて駆けこんできた。

「 お〜し。 それじゃ  すぴか、審判を頼む〜 」

「 いいよ〜 アタシ 見学する。 」

「 ん・・・っと。 それじゃ おと〜さん! こっち! 」

「 おう。 何のゲームなのかな 」

「 えっとね これは めいろだっしゅつゲーム! 」

「 ふうん ・・・?  これが こっち か。 」

ジョーは なんとな〜く覚束ない手つきで ゲーム機をいじくっている。

「 はい スタート! 」

「 うお ・・・  」

 

    カシカシ カシ!   カタ カタ カタ・・・

 

「 あ おと〜さん そっちじゃないよう〜〜 」

「 え? あ いっけね〜〜〜  えいっ 」

「 あ あ 反対だよ〜〜 」

「 あ そ そうか? えっと〜〜 

「 ! ・・・ みぎ みぎ! みぎ〜〜〜 」

「 うう〜〜〜 右にいけっ〜 あれれれ?? 」

「 おと〜さん おそい〜〜 おそいってば 

「 え? えええ  ああ〜〜 」

覗きこんでいるすぴかの 盛大な?応援を貰ったのだが ―

 冒頭のシーン となった。

 

「 へっへ〜〜 僕の勝ち〜〜〜 」

 

すばるは得意満面である。

「 あ〜〜 完敗だあ〜〜 すばる、強いなあ〜 」

「 え〜 僕、そんなに強くないよ? 」

「 そっかなあ〜 すごく上手だなあ〜って思ったよ 」

「 ・・・ おと〜さん。 お父さんが 弱すぎ 」

すぴかが ぼそっと言う。

「 あ〜 そっかなあ  次はすぴかとやろうか 」

「 あ〜 アタシ いいや。 お父さん、ゲームは

 すばるとやったら? 」

「 すぴかは やらないのかい。 」

「 ウン。 いい。 」

「 そうかい  それじゃ ・・・ あ アレ やろうか。 」

「 あれ? あれって なに。 」

「 うん ちょっと待ってて。 確か ・・・ 納戸にあったはず

 今 持ってくるからね 」

ジョーは リビングを出てゆき しばらくして戻ってきた。

 

「 おと〜さん なに? 」

「 これ さ。 知ってるだろ 

「 あ〜〜  前にもやったね・・ けんだま!! 

「 当たり。 二つ あるから一緒に遊ぼうよ。

 ちょっとやってみるな 

「 ウン! 」

「 え〜〜〜  よっ ・・・と〜〜 」

ジョーは 慣れた手つきでけん玉を握った。 そして ―

 

   コン コンコン  コン ・・・ カチャ !

 

赤い玉は 大皿 小皿 中皿 を経て ぽい、と 剣先に収まった。

「 わ ・・・ すっご 〜〜 

「 おと〜さん  まほう使った??? 

すばるも ゲームを放りだし寄ってきた。

「 あはは 魔法なんか使ってないさ。

 すぴかやすばるにもできるよ。 ほらやってみようよ 

 こうやって持つんだ 」

「 え ・・・ こう? 」

なんにでもチャレンジ! のすぴかはさっそくけん玉を握る。

「 そうそう そうやって持つ。 

 まず最初は 大皿にのっけてごらん。 」

「 おおざら って ここ? 」

「 どうだよ、一番大きなトコ。 」

「 え〜〜 せ〜〜のっ !! 」

 

   ぶう〜〜ん 〜〜〜〜 ごっ ! 

 

チカラまかせに振ったので 玉は勢い余って回ってしまった。

 

「 あれえ・・・ 」

「 あはは じ〜っと ね。 こうやって 静かに糸を垂らして 」

「 なんか つり みたい 」

「 そうかもな〜〜  ・・・で ほいっ ! 

 

    す ・・・ カチャ。  赤い玉は静かに大皿に収まる。

 

「 そっか〜〜  あ すばる やってみ? 」

「 うん!  えっと こう? 」

「 あ おやゆび と ひとさしゆび だよ そう! 」

「 で〜 しずか〜〜に 糸、さげて ・・・ 

「 お。 すばる いい感じだぞ? 」

「 ん〜〜 っと で ・・・  やっ 」

 

    するん。  玉は大皿まで行き着けず落ちてきた。

 

「 あ〜〜〜 」

「 もちょっと えいっ! ってやってみれば 

「 そ?  ねえ すぴかもいっしょにやって 」

「 え いっしょ? 」

「 ああ いいねえ ほら すぴか こっちのけん玉 持って 」

「 う うん ・・・ 」

「 持ったかい? じゃ そ〜っと玉を下げて〜〜 」

「 ん・・・ 」

「 ・・・ ん 」

「 いいかい そのまま真上にあげて 大皿、だよ? 

 せ〜の〜〜〜 せっ ! 」

「 やっ! 」

「 ん! 」

 

    かちん   かっちゃ !

 

「「 わあ〜〜〜〜 やったああ〜〜〜〜 」」

すばるのは なんとかやっこら大皿に乗り、 

すぴかのは 一回 跳ねてからなんとか落ち着いた。

「 おお〜〜 二人とも上手だなあ  すごい すごい 」

「 え へへへ・・・ そっかあ〜 しずか〜〜にしてて えいっ! 」

「 おと〜さん さなかつり みたい〜〜 」

「 そうだねえ  じゃあ 次は小皿に挑戦だ 」

ジョーは 大皿と反対側の皿を指した。

「 うっぴゃ ちっちゃ・・・ 」

「 ちっちゃ〜〜 」

「 小さくても大皿を同じだよ。 そう〜〜っと糸を垂らして 」

「 つる! たま つる! 」

「 ああは そうだねえ ほら やってごらん 」

「 おと〜さん やってみせて 」

「 いいよ ちょっとすぴかのけん玉、かしてくれ 

「 うん いいよ はい。 」

「 サンキュ。 え〜と ・・・・ ふん〜 」

 カチ カチ  ―  ジョーは 2〜3回、けん玉を小皿の上で

ジャンプさせていたが ・・・

「 おし、さあ 見てろよ 

「「 うん!! 」」

すぴかもすばるも 息を詰めてじ〜〜っとお父さんの手元を

見つめている。

 

「 〜〜〜 ほいっ 」

カチン。 赤い玉は難なく小皿の上に乗った。

「 すっご〜〜〜〜 おと〜さん! 

「 やた〜〜〜 すっげ すっげ〜〜〜 」

「 いいか ― 見てろ 」

「「 うん 」」

 

   カチ カチン ・・・ ぶう〜ん カチャ!

 

ジョーのけん玉は 小皿から大皿、中皿に乗り 空中を一回りし

すた・・っと剣先に填まった。

 

     すっげ〜〜〜〜〜〜 !!!

 

「 はは そんなに凄くないよ。

 練習すれば すぴかもすばるも出来るようになるさ。 

「 え〜〜 ほんと?? 」

「 ああ。 お父さんは一年生の頃に これ・・・できるように

 なったんだよ 

「 すっげ〜〜 ぼ 僕も・・・できる かな・・・ 」

「 練習すれば ね。

「 ― やる! 」

珍しくすばるが 先にけん玉の練習を始めた。

「 ん〜〜〜  こうやって・・・ 」

のんびりやさんのすばるは じ〜〜っと慎重に構えている。

「 そうだよ、玉が動かなくなるまで待つ。 」

「 ん! 」

   カチ カチ ・・ !

すばるは 失敗もものともせず熱心に取り組んでいる。

「 いいぞ〜〜 すばる。

 すぴか。 すぴかもやってごらん? 」

「 ウン。 ねえ お父さん。 なんか変わったワザ おしえて 」

「 変わったワザ? あ〜 それじゃ ね 」

「 うん! 」

ジョーは 玉の方を持って けん玉の胴体を飛ばし・・・

剣先を玉に収めてみせた。

「 わ! すっご〜〜 」

「 やってみるかい? 手に当たると痛いから 気をつけて 」

「 平気! やる! 」

 

    カチャ  カチャ ・・・ ごん。 いてっ。

 

すぴかも熱心に練習を始めた。

 

「 あらあ 二人とも夢中ねえ 」

フランソワーズが キッチンから顔を覗かせた。

「 フラン。 なんか お気に召したらしいよ 

「 ふふふ ・・・ オンライン・ゲームに熱中、よりずっといいわ。

 ・・・ねえ あとでわたしにも教えてくれない? 

 あの けん玉。 」

「 お いいよ〜 へへ ぼく 実はチビの頃さ、

 けん玉名人 だったんだ。 」

「 え 初めて聞いたわよ? すっご〜〜い〜〜〜 

「 あれ 言ってなかったっけ? 」

「 聞いてな〜〜い 」

 

「 あ おか〜〜さん  見て 見て〜〜〜

 僕ね 大皿〜〜〜 と 小皿、できるよう〜 」

すばるが 夢中になりつつお母さんを呼ぶ。

「 あら そうなの、見せて 見せて〜 」

フランソワーズは 息子の側に飛んでいった。

「 ねえ すばる。 もう一度 やってみせて 」

「 いいよ〜 こう・・・ やってね〜〜 」

すばるは ぷっくりした指で慎重に玉の動きを止める。

そして  せ〜のっ !!! 

 

    カチ。  赤い玉はすんなり小皿の上にのっかった。

 

「 ・・・・   わっ すご〜〜 」

「 えっへっへ〜  ねえ みてて お母さん 」

「 うん。 」

「 ん〜〜  よっ! えっと  ん〜〜  よっ ! 」

赤い玉は 無駄のない動きで大皿に乗り、小皿に移った。

「 すっご〜〜〜い〜〜〜 すばるってば〜〜 」

「 えっへっへ〜〜〜 次はね〜 中皿、目指すね〜〜 」

「 ええ ええ がんばって!! 」

 

「 おと〜さん おか〜さん 見て! 」

今度はすぴかが声を上げた。

「 お どうした? 」

「 ね〜〜 こんなの できたよ〜〜 見て 」

「 うん? やってみてくれるかい 」

「 いい? いっ・・・せ〜〜のっ !! 」

すぴかは 赤い玉を持つと えいっ! けん玉の胴体を垂直に引き上げ ―

 

      カチ。

 

玉の上に けん玉が直立した。

 

「 ね!! ど? 」

「 お〜〜 すごいなあ〜〜 それは ろうそくっていう技だよ 」

「 ろうそく?  ふう〜ん 」

「 すごい すごいわあ〜 すぴか! 

お父さんを唸らせ、お母さんを感心させ ― すぴかはご機嫌ちゃんだ。

「 次はね〜〜  さっきおと〜さんがやったの、がんばる! 」

 

   ぶうん ・・・ カチャ ぶうん〜〜

 

すぴかは もう熱心に練習を始めた。

 

「 ねえ すぴかが練習してるワザってなに 」

「 あ これかい。 

 

   カチャ カチャ カチャ 〜〜〜 ぶうん  カチ!

 

ジョーのけん玉は 難なくすんなりと玉に刺さった。

 

「 うわあ・・・ ジョー すごいわあ  器用なのね 

「 器用・・・ってか。 チビの頃、遊び道具なんかあまりなくてさ。

 古いけん玉とかコマくらいかなあ。 あとボロボロのボード・ゲーム ・・・

 まあ そんなわけで熱中していたんだ。 」

「 そう なの・・・ 」

フランソワーズは 声を落とした。

「 結構面白いんだよ? ほら ・・・ チビ達も夢中だろ? 」

「 そうね。 ものすごく集中してるわ ・・・

 それに楽しそう 

「 ほら 見てごらん。 すぴかは膝を使ってリズムを取ること、

 発見してる。 すばるは 玉を飛ばすタイミングがわかったんだ。 」

「 まあ ・・・ ほんとう。 」

「 二人はさ 自分で発見したんだと思う。 あれこれやってみてね。

 ぼくは特に教えてないからね。 」

「 ふうん ・・・ すごいわね 」

「 お正月っぽくていいだろ? 」

「 そうね。 わたしとしては 

 ぴこぴこゲーム機に張り付いているより ずっと好き。  」

「 まあ ゲームにも得る点はあるとは思うけどね 」

「 そうかしら。

 ねえ けん玉って運動神経と集中力 必要よね 」

「 あ〜 そうかも 

「 そうです。  ねえ 他にお正月っぽい遊び ある? 」

「 お正月っぽい?  ・・・ あ〜 コマがあるかあ 」

「 こま?? 」

「 ウン。 多分 納戸の隅っこにあるかもしれない。 

 探してくるよ 」

「 あら 楽しみ。  そうそう オヤツは ミルク・ジュレ よ 」

「 わお〜〜 」

「 ふふふ 二人ともけん玉に夢中ね。 楽しそうよ 」

「 うん。 あんなに集中するとは思わなかったな。

 コマにも興味を示すかなあ 」

「 珍しい遊びには 興味深々よ きっと。 」

「 さあ どうかなあ コマ回し はけん玉よりも難しいからね 」

「 ムズカシイの? 」

「 あ〜 うん、難しい、というか ちょいとコツが必要なのさ 」

「 ふうん ・・・ 」

「 ちょっと探してくる。 多分 玄関の納戸の中にある かなあ

 ガラクタ類はあそこに突っ込んであるはず ・・・ 」

ジョーは ぶつぶつ言いつつ出ていった。

 

「 おか〜さん みて〜〜 」

「 見て みて おか〜さん 」

すぴかもすばるも 得意顔で母を呼ぶ。

「 はいはい 今 行くわ。 二人とも見せてね〜 」

フランソワーズも にこにこ顔で子供たちの側に寄っていった。

「 順番に見せて? 」

「「 うん!! 」」

 

 カチ カチ カチャン。  ぶう〜〜ん カチっ!

 

「 きゃあ〜〜 どうしてそんな風にできるの???

 すばる、玉の中に磁石とか入ってるの??

 すぴか〜〜 リモコンが仕掛けてある とか?? 」

 

   ぶっぶ〜〜〜〜  あははは・・・ えへへへ・・・

 

もう子供達は大喜びだ。

お母さんは どうも本気でそう思っているらしく ・・・

それだけでも すぴかもすばるも ほっぺを染めて喜ぶのだ。

 

「 ふう・・・ 」

オヤツのジュレを分け始めた頃、 ジョーが戻ってきた。

「 あら ジョー。 オヤツよ〜〜  どうしたの。

 なんか ・・・ 顔、汚れてる? 」

「 え あ そうかも・・・ いやあ ガラクタいっぱいでさ。 」

「 片づけないとね ・・・ こま はあった? 」

「 見つからないんだ。 その代わりにこれがあった。 」

「 ・・・ それ  ヒモ? 」

「 そう ヒモ。 あやとりのヒモ さ。 

「 あやとり?? 」

ジョーは 箱の中から毛糸で編んだとおぼしきヒモを数本、

摘み上げた。

 

 

オヤツを食べ終わると 子供たちは早速 あやとりのヒモを手に取った。

すぴかもすばるも なんだか手慣れた様子だ。

「 ん〜〜〜  はい。 次 おと〜さん。 とって。

「 おう。 え〜〜と 川 は ・・・ 」

「 川 はね こゆび で あっち と こっち とって〜 」

「 お そうだったな  〜〜〜 ほい。 」

「 あは じゃあ次はね〜 」

 

子供たちは二人ともあやとりを かなりよく知っていた。

 

「 ようちえん でやったも〜〜ん 」

すぴかは たったかかなりの速さで指を動かす。

「 僕もしってる! えっとね〜〜 これはあ 

すばるも ぷっくりした指で案外上手にあやとりのヒモを繰る。

「 お。 上手いじゃないか すばる〜 」

「 へへへ  次 おと〜さん 」

「 おう いいぞ。 これは・・・ ああ こう〜だろ? 」

ジョーも 上手くヒモをとる。

「 〜〜〜 で 富士山に月見〜〜 」

「 アタシも! すばる、いい? 」

「 い〜よ〜〜  あ おか〜さん! おかあさんも やろ! 」

フランソワーズは 目を丸くして家族の手元を眺めている。

「 え・・・ お母さん、出来ないわ。 知らないんだもん。 」

「 おか〜さん 僕、教えたげる。  はしご やろ 」

「 あ アタシ 見本〜〜  」

 ささささ〜〜〜 と すぴかは指を動かし・・・

「 ― はい はしご。 

   すぴかは 素早く 四段はしご を作ってみせた。

「 わあ すごい・・・  

「 おか〜さん。 まずね、はじめのかまえ、やります。 」

「 こ ・・う ・・? 

「 ん〜んん さきにね 右手からだよ 」

「 あ そうなの?  ・・・ こう? 」

「 おか〜さん 僕の、よくみて〜 」

すばるは お母さんの隣に並ぶとゆっくり指を動かし始めた。

「 こう こう。 できた? 」

「 ・・えっと ・・・ こう? 」

「 ぴんぽん♪ で ね 次は おやゆび はずして 」

「 え え??? はずす の?? 」

「 そ。  あ あ  両方ともいっぺんにはずす 」

「 え?? お 親指が動かない ・・・? 」

「 あ そんなぎちぎちにひっぱったらダメだよぅ〜 おか〜さん 」

見かねたすぴかが 横から手伝ってくれた。

「 そ そう??  」

「 こうやって はずすのぉ〜  

「 あ そうなの?  すばる! 外れたわっ 

「 次ね〜 親指で 下から小指の向こう側のヒモ、 とります。 

 〜〜〜 って 

「 え???  ど どうやったの??? もう一回 やって ! 

「 あ〜 ・・・ ん〜〜  はい。 」

「 ??? わ わからないわ ・・・ 」

「 もいちど、いっしょにやろ? 」

「 え ええ そうね。 教えてください。 

「 うん まず きほんのかまえ。 

「 え・・・っと  こう? 」

「 おか〜さん ひっぱりすぎ〜〜 」

「 あ そ そか・・ あれ・・? 」

 

すぴかとすばるのお母さんは ― 致命的に?ヘタクソだった。

 

「 ・・・ お母さん。 いいよ みてて。 」

「 うう 〜〜〜 」

「 ね お母さん。 アタシがやるから。 いっしょに見よ 」

「 ・・・ うん・・・ 」

すばるは ゆ〜〜〜っくり何回も教えてくれたし

すぴかは 手をだして協力してくれた  ・・・ のだけど。

フランソワーズは ど〜にも こ〜〜にも ヒモを操れなかった。

 

      「 ・・・・ 」

 

「 へ〜き へ〜き。 にがてって みんな あるから。 」

「 そ〜だよ〜〜〜  ゆっくり おぼえればいいからさ 」

子供たちは とてもとて〜も優しかった ・・・

「 すばる。 白鳥 できる? 」

「 あ〜 ・・・ わかんない。 わすれちゃったかも〜〜 」

「 やってみて。 アタシ 最後のほう、わすれた 」

「 ん〜〜〜 」

すばるは かなりフクザツな作品に取り組み始めた。

すぴかは隣に張り付いている。

ジョーも 目を奪われた。 

「 お〜〜 すごいなあ あとでお父さんにも教えてくれよ 」

「 いいよ〜〜 ・・・って ・・・ え〜と・・? 

「 そ。  その後 わかんないんだ・・・ あ そっか〜〜 

「 こう こう こう〜〜  で   はい 白鳥! 」

「 わ すご〜〜 すばる〜〜 」

「 えへへへ  すぴかもやって! 思い出した? 

「 ん〜〜 だいたい思い出したけど  みてて! 」

「 うん 」

二人は 色違いのアタマをくっつけ熱心に取り組んでいる。

 

    へえ・・・ こういう時は仲良しねえ〜

 

「 皆 スゴイわねえ 」

フランソワーズは ひたすら感心してしまう。

「 え そうかい。 きみ、あやとりってやったこと・・・ ないよなあ 」

「 ええ 生まれて初めて見たわよ。

 ・・・ もう ウチの皆は 魔法使い だわ〜〜 

「 あは これはねえ 慣れ っていうか。

 子供の頃におぼえると 手が覚えてるって感じなんだ。 」

ほら・・・と ジョーは ひょいひょい 四段梯子 をつくり

ほら ほら・・・と 六段、 八段 と増やしてみせた。

「 !  ・・・ インクレディブル!! 

「 なんかこう〜 自然に手が動くんだ。

 でも もう すばるがやってる  白鳥  みたいな難しいのは

 ダメだなあ 

「 そうなの? わたしなんか もう全然 ・・・・

 わたしの指、あんな風には動かないわ 」

フランソワーズは すこしばかり情けなさそうに

すんなりと伸びた白い指を見つめている。

 

   ただいま  戻ったよ  

 

玄関のドアが開いた。

「 あ 博士〜 お帰りなさい 

ジョーが 玄関に飛んでゆき、荷物を持って戻ってきた。

 

「 ほほう・・・ 皆 楽しそうじゃなあ 」

博士がにこにこ・・・ リビングに入ってきた。

「 あ お帰りなさい 博士。 お寒かったでしょう? 」

「 いやいや いい運動じゃよ 」

「 今 熱いお茶 淹れますね 

「 おお ありがとう。 ほほう〜 けん玉にあやとり か 

 チョイと手を洗ってくる。 すぴか すばるや ・・・

 さっそく見せておくれ 

「「 わ〜〜〜い おじいちゃま〜〜〜  みて みて〜〜 」」

 

子供たちは けん玉とあやとりの < 秘儀 > を 存分に披露した。

 

「 ほう・・・ 二人とも上手じゃなあ 」

「 あのね! おじいちゃま。 お父さん、もっとじょうず! 」

「 すごいよ〜〜 」

「 ほう ほう それは知らなんだのう 」

「 ね ね おじいちゃまは けん玉、上手? 」

「 すぴかや ワシはけん玉よりもこれかな。 ちょいと借りるよ 」

「 え? ええ 」

博士は テーブルの上の籠からミカンを三個取り上げた。

「 これを 〜〜 」

 

   ほい  ほい  ほい

 

三個のミカンが 空中に舞う。 

博士は お手玉 がめっちゃくちゃ上手だったのだ。

「 う わ〜〜〜〜〜〜  すっご ・・・・ 

「 すっげ! おじいちゃま すっげ〜〜〜  

子供たちの目は 文字通りまん丸だ。

「 〜〜 ほい、と。  ああ 食べ物をオモチャにしてはいかんな。

 お前たちはちゃんと < お手玉 > を使いなさい。 」

「 へえ〜〜 すごいですねえ〜〜 」

「 すごい特技ですわね〜〜 子供の頃、覚えたのですか? 」

「 いや なに・・・ 若い頃になあ こう〜 ピーナッツなんぞを

 投げて落ちてくる間に 単語を覚える なんてことをやっててな 

「 うわ〜〜 さすがですねえ 

「 ピーナッツが落ちてくる間に 暗記! ですか・・・

 すごい 〜〜〜 」

「 おか〜さん ウチにお手玉 ある? 」

「 おてだま〜〜 僕もやる〜〜 

「 明日 作ってみましょうね。 中にはなにが入っているのかしらねえ 」

「 あとで ネットで調べようよ 

「 そうね。 」

「 ねえ お父さん。 ウチは みんな とくいワザがあるね〜〜 

「 そうだねえ  皆 いろいろだね 」

「 みんな いろいろ? 」

「 ああ。 皆 どの人も 違う顔をもっているじゃろう? 」

博士は のんびりと子供たちに話す。

「 ウン アタシ達 ぜんぜんにてないもんね〜 

「 うん。 ね〜 ウチの皆 ぜんぶかみの色 ちがうね〜 」

「 め の色も! 」

「 そうじゃろ?  それと同じで み〜んなちがった < 得意 >

 を もっておるのさ。 」

「 とくい・・って じょうず ってこと? 」

「 そうだよ 好き で 上手なこと さ。 」

「 あ アタシ。 なわとび と 走るのが とくい! 」

「 僕 ・・・ あやとり と 電車が すき! 」

「 そうじゃろ そうじゃろ・・・  皆 いろいろじゃ 」

「 すぴかもすばるも すごいわあ〜 

 わたしはなんにもできないけど ・・・ 

 わたしの手は 皆みたいに動かないわ。 

フランソワーズは お茶を淹れつつ少し淋しそうだ。

「 おかあさん!! 」

すぴかが たたたた・・・っとお母さんの側に駆け寄った。

「 アタシ!  お母さんの手 だ〜〜〜いすき♪ 」

「 ぼ 僕も!!! だいすき〜〜〜 」

すばるは ぴょんと母の手に飛び付いた。

「 あら ら 」

「 そうじゃなあ。 すぴかとすばるのお母さんの手は素晴らしい。

 美味しい料理を作って 掃除や洗濯をしてくれて

 皆の手袋やらマフラーを編んでくれて  

博士もにこにこ 付け加えてくれた。

「 え ・・・ あ あらら 」

「 だ〜から。 アタシ み〜〜〜いんな すき! 」

「 僕も!! 」

 

   ふふふ ・・・ お母さんも みいんな 好き よ!

 

   ぼくは ― このヒトが世界で一番 好き !!

 

大きな手、温かい手が ふんわり・・・フランソワーズの手を包みこんだ。

 

   わたしも。  このヒトが  だ  い  す  き  ♪

 

 

*********************      Fin.      *********************

Last updated : 01,07,2020.                    index

 

 

 

************  ひと言  ***********

あけまして おめでとうございます <m(__)m>

お馴染み・ 【 島村さんち 】 シリーズ、

なんてことない、ほんわか話です (^◇^)